「月の街」「山の街」は韓国語で、舗装されていない丘の斜面に密集する貧民街を指す。作者のイ・チョルファン氏はそうした地域の出身で、予備校の教師時代に生徒たちから聞いた実話をまとめ、短編集として2000年に発表した。
描かれるのは、両親のいない子供たちを思いやる食堂のおばさんや、障害がありながら地下鉄の線路に落ちた子供を助ける青年。韓国版「一杯のかけそば」とも言える、貧しいながらも支え合って生きる人々の姿が感動を呼び、シリーズ累計360万部を売り上げるベストセラーになった。
ワニブックスは03年、「草なぎさんは韓国語が堪能なだけでなく、俳優として優しく紳士な役柄が多い。ひたむきなイメージがあり、作品のイメージにぴったり」と翻訳を依頼。草なぎも韓国語の原本を読み「ぜひ日本に紹介したい」と賛同。昨年から本格的な作業に入り、シリーズ全体の短編約100点から29点を厳選して翻訳した。
草なぎは01年にテレビ番組の企画をきっかけに韓国語を学び始め、「チョナン・カン」として韓国でタレント活動を開始。大統領と対談したり、04年に全編韓国語の映画「ホテルビーナス」に主演するなど日韓交流を深めてきたが、翻訳は初挑戦。「韓国ならではの、家族をとても大事にする気持ちや愛情深いところがうまく凝縮されている。日本人とは少し考えや感覚が違うので違和感を抱くこともあるが、そういう“いい違和感”こそが韓国にハマッている理由でもあるので、楽しみながら翻訳できました」と手応えを語った。
あとがきでは「韓国のものや作品は僕をすごく成長させてくれます。無意識のうちに感じるところがあるというか、僕の本能で必要と感じているので、これからも韓国の人や作品に関わっていきたいですね」と愛着を吐露。これからも語学力を生かし、日韓の懸け橋になることを誓った。
(引用元:中日スポーツ)